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地域フードロス・耕作放棄地・マイクロプラスチック、「日本一もったいないをなくす会社」が挑む次の課題解決。バイオマスレジンHDの成長と未来

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お米由来のバイオマスプラスチック「ライスレジン」などを製造するバイオマスレジンホールディングス。代表の神谷雄仁氏が2007年に前身となる株式会社バイオマステクノロジーを設立、2020年3月にホールディングス化し、「ライスレジン」の製造などを行うバイオマスレジン魚沼や、マーケティングを担うバイオマスレジンマーケティングなど、現在は多数の子会社やグループ会社を持つ。

「ライスレジン」は、もともと廃棄されてしまうお米を活用したプラスチックだ。「カーボンニュートラル」の性質を持ちながらも、高品質なプラスチックとして、「赤ちゃんのためのお米のおもちゃシリーズ」や郵便局レジ袋の原料として採用されてきた。2021年には生分解性プラスチック「ネオリザ」を発表するなど、さらに事業を拡大し続けている。

今回は、神谷雄仁氏にバイオマスレジンホールディングスを設立してからの成長と、今後の展望についてお話を伺った。


神谷雄仁
株式会社バイオマスレジンホールディングス 代表取締役CEO
商業施設開発のコンサルタント、食品商社で化粧品・健康食品原料の開発などを経てバイオマス関連事業に参加し、2007年、前身となるバイオマステクノロジーを創業。2017年11月、バイオマスレジン南魚沼を設立。2020年3月、バイオマスレジンホールディングスを設立し、代表取締役CEO就任。

INDEX

手探り状態から一歩進めた要因は、技術レベルの進歩
フードロスだけでなく、耕作放棄地問題にも向き合う
地域の残渣を活用し、ご当地プラスチックを作っていく
先を見据えつつも、行動は半歩先くらいがちょうどいい
ここがポイント

手探り状態から一歩進めた要因は、技術レベルの進歩

——2020年7月にも記事にさせていただいていますが、現在の会社や事業の状況を教えてください。

前回の取材を受けた頃は、バイオマスレジンホールディングスを設立し、事業を多角化しようと手探りしている時期でした。現在は少しずつですが確実に成長していて、グループ傘下として、製造をメインに行う工場を熊本や福島などに設立しています。今後も、北海道や広島など各地に工場を広げていく予定です。

また、バイオテクノロジーやIoT、AIなどを活用し、新しい農業を目指すスマートアグリ・リレーションズという会社も設立しました。将来的には、アジアを拠点として活躍する、グローバルな会社を目指しています。

——前回伺ったときと比べると、かなり成長していますね。手探りの状態から、ブレイクスルーできたのはなぜでしょうか?

一番の理由は、技術のレベルが上がったことです。その結果、質の高い製品を適切な価格で販売できるようになりました。いくら素晴らしい製品を作っても、品質が悪かったり価格が高すぎたりしては、なかなか日常生活には浸透していきません。質の高さと適切な価格設定を両立させることが重要です。

きっかけとなったのは、2020年7月から全国の郵便局でバイオマスレジンで作られたレジ袋の使用が始まったこと。日本中の郵便局に納品するため、大量生産していると、品質に微妙なばらつきが出てしまいました。そういったトラブルに対応して改良していくなかで、自然と技術レベルが上がっていきました。

また、技術レベルが上がるに伴って、製品のバリエーションが増えましたし、製品によってお米を使い分けるようにもなり、質の高いものも作れるようになりましたね。

フードロスだけでなく、耕作放棄地問題にも向き合う

——現在、国内には新潟県、熊本県、福島県に工場がありますが、なぜ各地に工場を設立しているのでしょうか?

私たちのビジネスの根幹にあるのはお米です。お米は都心部ではなく、日本の各地で作られています。お米を産地で作って輸送したのでは、その分のロスがうまれてしまいます。だからこそ、米どころである新潟県の南魚沼市をはじめとして、原料であるお米を生産している地域に工場を設立しています。

――いくつかの工場はジョイントベンチャーですが、それはなぜでしょうか?

一つは、金銭的な理由です。短期間で約10箇所の工場設立を目指していますが、工場を作るには相応のイニシャルのコストが掛かりますし、そもそもプラスチックは収益性の高いものではないので、すべて自前の工場というわけにはいきません。ただ、どんな企業でも良いというわけではなく、目指す世界観に共感いただけていてお互いに一緒にやっていく意味のある会社にお声がけをさせていただいています。

もう一つは、その地域への貢献という意味合いがあります。お米を使った新しいビジネスを、官民学が連携してやっていくことで、地域活性化に繋げたいと考えています。

——2020年9月には、スマートアグリ・リレーションズという会社を設立されています。「ライスレジン」の製造だけでなく、新しい農業の模索に力を入れている理由を教えてください。

フードロスは世界共通の課題なので、“廃棄されるお米をプラスチックにする”という事業はSDGsの観点で評価してもらえます。しかし、日本国内に目を向けると、耕作放棄地の問題もあります。耕作放棄地は病害虫の温床になったり、雑木・雑草の繁茂や火災、災害リスクの上昇などにつながってしまいます。高齢化や後継者不足により、5年後10年後にはさらに耕作放棄地が増えるでしょう。日本の農業を考えると、フードロス問題を解決しつつも、耕作放棄地問題にも向き合わなければならないんです。

そこで、「ライスレジン」のようにお米に新しい価値を見出すことで、耕作放棄地を水田に戻していきたいと考えています。水田を復活させると同時に、食べないお米に適した栽培方法を新たに考える必要もあります。プラスチックにするお米は、食糧米と違って味を追求しなくてもいいですから。生産性や効率性を重視した栽培を実現するため、スマートアグリ・リレーションズでは次世代型の農林水産業に取り組んでいます。

——環境・社会問題の解決に向けて取り組んでいらっしゃいますが、製造過程での環境へのダメージはあるのでしょうか?

私たちのような事業をやっている以上、エネルギーや物流などもクリーンでないと意味がありません。たとえば、福島県の工場では太陽光パネルを活用し、クリーンエネルギーの利用を計画しています。製造した「ライスレジン」も、できるだけその地域で使うことを心がけています。また、工場のある浪江町には水素エネルギー研究フィールド(FH2R)があり、町と一緒に水素エネルギーを活用した事業会社の設立も計画しています。

地域の残渣を活用し、ご当地プラスチックを作っていく

——2021年の秋に、お米由来の生分解性プラスチック「ネオリザ」を発表されましたが、これまで製造されてきたお米のプラスチック「ライスレジン」との違いは何ですか?

「ライスレジン」は、お米と石油を混ぜて作るプラスチックです。お米は最大7割まで混ぜることが可能ですが、逆に言えば少なくとも3割は石油が含まれます。従来のプラスチックよりも二酸化炭素の排出は削減できますが、微生物の力で自然に還る、生分解性プラスチックというわけではありません。

しかし、「お米のプラスチック」というと自然に優しいイメージを持たれるので、生分解性プラスチックだと勘違いされることが多々ありました。説明しているこちらとしても心苦しくて、それならばいっそのこと生分解できるプラスチックを作ろうと生まれたのが「ネオリザ」です。「ライスレジン」と「ネオリザ」の2つのブランドを作ったことで、両者のプラスチックの特徴をより理解してもらえるようになりました。

——「ネオリザ」はどのような製品に活用されていくのでしょうか?

一つの事例としては、2022年12月に三洋化成が開発する肥料被覆材に「ネオリザ」を採用していただきました。肥料被覆材と聞いてもピンとこない人がほとんどだと思いますが、稲作などに使用する肥料の効きをゆっくりにするために外側をコーティングしているプラスチックのことで、一部が分解されないまま川や海に流出しているとして問題になりました。このプラスチックを「ネオリザ」に置き換えれば、その土地で分解され、川や海への流出を抑えることができるのです。

とはいえ、一口に生分解性プラスチックと言っても、どの土地でも同じように分解されるわけではありません。たとえば、北海道の大地と沖縄の大地では、気候や環境もまるで違うわけで、当然微生物も違います。ですから、その土地ごとにきちんと生分解されることを実証したうえで、2027年の実用化を目指しています。

——そのほかに活用のイメージはありますか?

「リージョナルプラスチック」、つまり地域のプラスチックに活路を見出しています。生分解性プラスチックは、従来のプラスチックに比べると耐久性が劣るということもあり、日本での市場が確立していません。プラスチック製品として全国的に販売していくのは難しいので、どのように「ネオリザ」を広げていくかを地域の人たちと話していたときに「ご当地プラスチック」という案が出たんです。

もともと、木粉やコーヒー残渣、そばがらなどを使って樹脂を作るという取り組みはやっていました。それを発展させて、地域で発生する残渣を「ネオリザ」と合わせることで、ご当地の生分解性プラスチックを作ろうと考えたのです。たとえば、熊本県だったら井草、和歌山県だったら梅干しの種、宮城県だったら牡蠣殻といったように、地域の残渣を活用しようと。「ネオリザ」そのものを売っていくのではなく、「ネオリザ」を活用する仕組みを広げていこうと考えています。

先を見据えつつも、行動は半歩先くらいがちょうどいい

——5年後は、どのような展開を目指していますか?

海外に拠点を広げたいと思っています。中国をはじめとしたアジア全域やアフリカには、技術を提供したいと考えていて、すでに展開を始めています。また、マーケット面では、来年にはフランス・パリで「ライスレジン」を使ったレザーを販売する予定です。ヨーロッパやアメリカの市場に対して日本の技術を発信し、ゆくゆくはアジアを代表する会社になりたいですね。

——海外でもお米を活用するのでしょうか?

「リージョナルプラスチック」と同じように、その地域にある残渣を活用します。「ネオリザ」をベースに、中東ではなつめやし、アジアではタピオカやキャッサバといった残渣を混ぜたプラスチックを作ります。「ネオリザ」は有機物の量によって分解の速度をコントロールできるので、その地域できちんと分解されるプラスチックを作ることができるのが強みになるでしょう。

——最後に、これからの成長を目指すスタートアップ経営者にアドバイスをお願いします。

スタートアップで事業運営していくと、いろいろなことが起こるのでなんとかの谷とか川とか言われますが、最初からそれらを想定して進むことが大事だと思います。そのうえで、目の前の小さな壁を乗り越えるときは、一気に、ダイナミックにいくのがいい。誰よりも足元を見て堅実にやっていくのはもちろんですが、ヒト・モノ・カネが揃っていないスタートアップは、保守的になればなるほど止まってしまいますから。

それから、目線として遥か先を見据えることは必要ですが、行動は一歩先じゃなくて半歩先くらいがベスト。特に製造業は保守的な業界なので、あまり先に行きすぎてしまうとついてきてもらえません。自分の考える目的地に最短でたどり着くために、誰もが賛同してもらえるタイミング、ストーリー性を常に考えています。

ここがポイント

・いくら素晴らしい製品を作っても、品質が悪かったり価格が高すぎたりしては、なかなか日常生活には浸透しない
・お米を使った新しいビジネスを、官民学が連携してやっていくことで、地域活性化に繋げたいと考えている
・日本の農業を考えると、フードロス問題を解決しつつも、耕作放棄地問題にも向き合わなければならない
・肥料被覆材を「ネオリザ」に置き換えれば、その土地で分解され、川や海への流出を抑えることができる
・目線として遥か先を見据えることは必要だが、行動は一歩先ではなくて半歩先くらいがベスト


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:溝上夕貴
撮影:幡手龍二