2022年4月、東京大学入学式の総長による式辞[1]でも起業(スタートアップ)を通した社会変化へのチャレンジが言及された。そして、スタートアップの中でも研究者が新しい科学や理論の社会実装を目指す大学発ベンチャーには大きな期待がかかっている。
経済産業省の調査[2]などでは、大学との関係性によって、大学発ベンチャーは5つの分類により定義される[3]。この定義に則れば、ハーバード大学で幹細胞の研究を行っていたデリック・ロッシ(Derrick Rossi)氏が共同創業者であるモデルナ社も大学発ベンチャーと言える。海外ではモデルナ社のような成功事例も生まれる中、大学発ベンチャーや大学はどんなことを考え、何に苦労しているのか?関係する過去の取材記事を4本紹介する。
大学発の技術を別用途で活用し、事業化へ
https://xtech.mec.co.jp/articles/5687
技術を持つ大学発ベンチャーは「事業化」部分で苦労することが多い。スタンフォード大学発の技術を別用途で活用し、事業化への道を見つけたエイターリンクの事例。
ワイヤレス給電は医療機器の技術として開発されたが、医療機器は業界として収益化まで10~15年はかかってしまう。他の業界でワイヤレス給電の技術を応用し、事業化できる用途を検討。「ファクトリーオートメーション」、「オフィス環境の改革」の領域で活用へ事業化、実証実験へ。
思いや課題感に共感してくれる外部の協力者を作るには?
https://xtech.mec.co.jp/articles/5894
アカデミアや医療機関との協力無しには前に進まない高難易度の事業である、医療機器開発への挑戦。リスクを許容する素地がない領域での市場開拓に際しては、集めた協力者へのヒアリングを徹底的に行い、発生しうるリスクへのアンテナを立て事業計画に落とし込んでいたという。「経営者は事業を俯瞰するためにリスクマネジメントへの注力が何より大切」とLily MedTechの東氏は語る。
大学を出ることで「研究」はもっと自由になる
https://xtech.mec.co.jp/articles/5553
エルピクセルの島原氏は「大学発ベンチャーの良さは自由度の高さにある」と話す。
大学の研究室では競争的資金を獲得するために多くの労力とプレッシャーを受ける。一方で、企業のR&D組織では戦略に沿った研究をしなければいけない。大学発ベンチャーであれば選択肢の幅が広く、大手企業と共同研究もでき、自分たちでも事業で収益化することもできる。さらには企業と研究を繋ぐ社会的意味も持つことになる。
医大も大学発ベンチャーを生む時代へ
https://xtech.mec.co.jp/articles/5603
東京医科歯科大学はオープンイノベーションを実践する場として、大企業・スタートアップ・アカデミアが集う「TMDU Innovation Park(TIP)」 を学内に整備した。
東京医科歯科大学の飯田教授は、「医大の先生も研究や教育だけでなく、社会貢献のために製品やサービスを広く普及させることにも意識が向きつつある。市場性を考えて動く企業と産学連携することは非常に有意義」と語る。
冒頭でも紹介した、経済産業省の調査によると、平成26年度以降調査を行った令和元年までは大学発ベンチャーの企業数は伸び続けている。おそらく、今後も継続して伸びていくはずだ。一方で資金調達面や事業化の側面ではまだまだ大学発ベンチャーの抱える課題は多い。
この課題がどう解決できるかで、日本の大学からイノベーションが生まれるかが大きく変わるのかもしない。
[1]
令和4年度東京大学学部入学式 総長式辞
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message2022_01.html
[2]
令和2年度産業技術調査事業「研究開発型ベンチャー企業と事業会社の連携加速
及び大学発ベンチャーの実態等に関する調査」
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa2_vc_cyousa_houkokusyo_r.pdf
[3]
1研究成果ベンチャー
2.共同研究ベンチャー
3.技術移転ベンチャー
4.学生ベンチャー
5.関連ベンチャー