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三菱地所が仕掛ける、街と人を結ぶイベントづくり。愛着を生み出す「丸の内」のNEXTステージ

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〽ハアー踊り踊るなら 丸くなって踊れ(ヨイヨイ) 踊りゃ心も(ソイ) 踊りゃ心も丸の内(サテ)

長く続いた、近年稀に見る冷夏はどこ吹く風。
突き抜けるように青い夏空の下、お囃子とともに始まった「丸の内音頭」。午後6時。東京駅を背にして組まれた祭り櫓(やぐら)を前に華やかな浴衣の老若男女が集い、にわかに熱気が高まっていく。賑やかな音頭は町中に響き渡り、祭りの情緒をさらに盛り上げていく。

祭りの開始を告げると同時に行われた打ち水で遊ぶ子供たち。近くの屋台でかき氷やフランクフルトなどの祭り飯を買いに走るスーツ姿のおじさま。座りながらも手先だけで音頭を取る白髪のおばあさま。そして、遠巻きに見ていた観衆も次第に音頭の輪に加わり、恥ずかしそうにしていた浴衣の若い女性もどんどん祭囃子に浮かされていく。

平日金曜日のオフィス街とはにわかに信じがたい盛り上がりを見せる、2019年丸の内盆踊り。こうした催しは、街にどういった作用をもたらすのか。東京随一のオフィス街・丸の内の「ハレ」舞台の仕掛け人に話を聞く。

INDEX

かつて「オフィスワーカーのための街」と言われた丸の内の今と昔
会社の壁を越えて熱狂する丸の内
2019年ラグビーワールドカップから2020年へ
ここがポイント

かつて「オフィスワーカーのための街」と言われた丸の内の今と昔


「日本一のビジネス街」、または「月曜から金曜の街(オフィスワーカーが多く、月〜金曜日に賑わうため)」との二つ名をもつ丸の内。1990年代より「丸の内再構築」を掲げ、様々な大規模開発が実行されてきた。そうしたハードの創造に加え、2002年の丸ビル開業以来、ソフトの充実が並行して図られている。今年7月末日に行われた「大手町・丸の内・有楽町 夏祭り2019」もその一環である。

春はクラシック音楽のコンサート、夏は盆踊りなど、四季折々のイベントが開催される丸の内。ソフトの充実が図られて以来、仕事以外の理由で訪れるための機能を持つエリアとして変化し、休日には買い物をする子連れ家族をはじめ、スカイバスに乗って丸の内周遊を楽しむ来街者が増えつつある。

もはや丸の内は「月曜から日曜まで」、ワーカーと来街者を隔てることなく楽しむことのできる街へと変革を遂げた。そうした街の変化を支える三菱地所街ブランド推進部の谷村氏は、新たな丸の内のあり方を構想し、形にするプレイヤーのひとりだ。谷村氏はどのような想いで、賑わいを創出しているのだろうか?


谷村真志(たにむら・まさし)
2008年三菱地所入社。広報部にてIRを担当、ビル開発セクション(丸の内/神田エリア等)を経て現職。ラグビーワールドカップ2019プロジェクト推進室兼務。

谷村:一昔前の丸の内は、「オフィス特化型の街」というイメージが強くありました。今後、働き方が変わっていく中で、在宅勤務やリモートワーカーが増えていくと、オフィスに出社して人と会うことも減っていくでしょう。通勤する必要のない丸の内に、それでもあなたは「来てくれますか?」と問いかけたら、その多くは「来ない」と答えるかもしれません。私はその状況に危機感を抱いています。だからこそ、微力ながらもイベントの面からその解決に向けた貢献ができるのではと考えているのです。
また、イベントを目的にワーカー以外にも多様な方々が街に集まれば、更なる賑わいが生まれ街の活性化に繋がると考えています。来街者のような丸の内に直接的なルーツが無い人でも、イベントを通じて丸の内の新しい楽しみ方を知り、街と強く結びついた感情的な記憶が形成できれば、何かの時にまた丸の内に来てもらえるのではないか。夏祭りの企画のひとつ「丸の内のど自慢大会」に代表されるように、「ここに来れば楽しめる“何か”が起きている」というイメージを作り、街の出来事を自分ごと化できるような参加型のコンテンツを増やしていくことで、街への愛着を深めていきたいのです。

三菱地所が手掛ける丸の内のイベント運営には3つの軸がある。それは「季節の賑わい」「文化的な深まり・賑わい」「ビジネス創造」だ。

「季節の賑わい」は、冒頭でその様子をお伝えした夏祭りを筆頭とする、移りゆく季節を感じられる催しである。新緑の気持ちいいゴールデンウィークにはクラシック音楽を堪能できるイベント、秋にはアートや食にまつわるイベントを催し、冬にはクリスマスイルミネーションをはじめ、丸の内ワーカーがサンタに扮して丸の内に訪れる人々に感謝を込めてお菓子を配る「サンタパレード」などが行われる。

こうしたイベントの中には「日本一のビジネス街」ならではのイベントも含まれる。

谷村:イベントを企画する上で、時には「ビジネス創造」の切り口が求められます。いわゆるビジネスイベントと言うと、大型展示場で行われるような参加企業ごとにブースを出すようなイベントが多いのですが、我々はもう少し踏み込んで、楽しみながら参加してもらえるような仕掛けにしました。
直近では、NewsPicks様とご一緒する形で「ビジネス酒場」を開催しています。ふらりと立ち寄った居酒屋にビジネス界の要人たちが談話をしていて、お酒を飲みながらざっくばらんに話を聞けたら楽しいよね、といったコンセプトで企画したものです。実業家の堀江貴文さんや元東京都知事の猪瀬直樹さん、SHOWROOM株式会社代表の前田裕二さんといった方々に、居酒屋に見立てたブースでお話してもらい、「お酒を飲みながら気軽にビジネス談義を楽しもうよ」という雰囲気を大切にしています。

会社の壁を越えて熱狂する丸の内


こうした取り組みが実を結び、参加者の結びつきが深まった事例がある。それは年に一度行われる企業対抗の綱引き大会だ。今年で第3回目となる大会の参加企業は丸の内を中心に約100チームとなり、初回に参加した約20チームから比べるとはるかに大きな盛り上がりを見せていることがわかる。大会終了後に回収した参加者アンケートでも、非常に高い満足度を叩き出している。

谷村:丸の内のワーカーはスマートな方が多いのですが、イベントを企画する立場からするとそのシュッとした感じが盛り上がりを欠いているような印象に繋がり、「もったいないな」と感じる時があります。だからこそ、綱引きのような老若男女、国籍問わず熱中できるコンテンツを発展させました。普段はスマートでシュッとしている方でも、試合の応援にはみなさんすごく熱が入りますし、勝てばお祭り騒ぎです。白熱した試合を終えた後、対戦相手だったライバル企業と友情が芽生える場面も見受けられました。
今年の大会ではNTTコミュニケーションズ様が優勝しています。優勝コメントに登壇した社会人ラグビーチームのOBの方が「ラグビーに興味がある方は私と名刺交換しましょう」と言って、そこでも多くの方々が名刺交換をして、活発な交流が生まれました。自社内の熱狂だけではなく、他社との新たなつながりも生まれているのです。

丸の内全体の盛り上がりは、三菱地所一社だけではなし得なかった。三菱地所は、丸の内の開発計画を初期からともに進める東京都や千代田区等の行政、そして他の地権者と目線を揃え、協力してきた。長きにわたりコミュニケーションを重ねてきたことが実を結んでいるのだ。

谷村:我々は1990年代からこの街を変えていこうと本格的に動き始めましたが、その時すでに丸の内には再構築のベースとなるコミュニティが形成されていました。ベースが整っていたからこそ、関わる人々の目指すものが揃い、より良い方向に進みやすかったのだと思います。「日本を代表する魅力的な街にしたい」というこの街のプレイヤーに共通する“想い”がなかったならば、ここまでスムーズに丸の内再構築は進まなかったはずです。

2019年ラグビーワールドカップから2020年へ


今年、大規模なスポーツの祭典のスポンサーとなった三菱地所。世界三大スポーツとされるラグビーのワールドカップのオフィシャルスポンサーとして、スポーツの力を借りて丸の内をさらに盛り上げていきたいと考えている。

谷村:ラグビーワールドカップをしっかりと成功させるという大きな使命はもちろんのこと、ここ丸の内でもスポーツのもたらす熱狂が湧き起こせればと思います。ベンチマークは2002年のサッカー日韓ワールドカップ。あの時に起きた、狂喜乱舞するような盛り上がりはいまだにとても強く記憶に残っていますが、それを上書きしたいですね。2019年の盛り上がりは2020年にも引き継がれると思います。「スポーツでも盛り上がる街だよね!」「あそこにいくと面白そうだよ」という熱狂の記憶をみなさんに残して、“チーム日本”の一員として翌年へとバトンを渡していけたらと思います。
「人を、想う力。街を、想う力。」をブランドスローガンとして掲げている我々は、当たり前のことかもしれませんが「人があるからこそ、街がある」ことを大切にしてきました。私自身も、人の流れを変えることや、人を満足させることが仕事ですし、「人」の感情が街を大きく変えていく瞬間に立ち会えることがなによりのやりがいだと感じています。人のエネルギーを大切に、熱狂やライブ感をもって、丸の内をますます充実させていきたいです。

ここがポイント

・「丸の内」はワーカーと来街者を隔てることなく楽しむことのできる街へと変革を遂げた
・街の活性化のために、街の出来事を自分ごと化できるような参加型のコンテンツを意識している
・老若男女が楽しめる「綱引き大会」を実施することで、自社内の熱狂だけではなく、他社との新たなつながりも生まれている
・「あそこにいくと面白そうだよ」という熱狂の記憶を残していきたい

企画:阿座上陽平
取材・デスクチェック:BrightLogg,inc.
編集:鈴木雅矩
文:小泉悠莉亜
撮影:土田凌