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3年で10件超の協業を実現!三菱地所アクセラレータープログラム仕掛け人が語るスタートアップとの付き合い方

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2017年から毎年開催されてきた、三菱地所のアクセラレータープログラム。今でこそオープンイノベーションの代表的な手段として、多くの企業がこぞって開催しているアクセラレータープログラムだが、当時、総合不動産デベロッパーとしては初となる三菱地所の取り組みは、スタートアップ界隈にも広く知れ渡ることとなる。

今年もまた第4回の開催が決定している。過去3回のプログラムを経て、どのようなブラッシュアップがなされてきたのか、プログラムを推進してきた新事業創造部長の小林京太氏に話を伺った。3年間でどのように社内と連携し、10社超のスタートアップとの協業を成功させてきたのか、苦労と改善の軌跡をお届けする。

INDEX

アクセラレータープログラムには「テーマ設定」が必要。回数を重ねて見えた課題感
アクセラ成功のポイントは、「トップが旗を振る」と「段階的な事業部巻き込み」
今年も開催されるアクセラレータープログラム。2019年との違いとは
ここがポイント

小林京太
三菱地所株式会社 新事業創造部長
ープロフィール
1992年、三菱地所入社。住宅事業等を担当した後、経営企画部にてグループ事業再編、M&Aを手掛ける。2018年、新事業創造部長に就任。

アクセラレータープログラムには「テーマ設定」が必要。回数を重ねて見えた課題感

プログラムを開始する前から、スタートアップとの付き合いがあったという小林氏。三菱地所が運営するワーキングスペースに入居するスタートアップとの付き合いのほか、業務提携を結ぶケースも少なくなかった。すでにスタートアップとのコネクションがあったにも関わらず、アクセラレータープログラムを始めたきっかけについて、小林氏はこう語る。

小林:プログラムを始めるまでは、こちらからアプローチをかけて協業に至るケースがほとんどでした。しかし、もっと門戸を広げ、多くのスタートアップと繋がりたい、またその意志を対外的にもアピールするためにアクセラレータープログラムを始めることにしました。多くの人にプログラムを知ってもらうために、当初はイベント感を前面に出していましたね。
他社を参考にプログラムを構築していったのですが、当時のアクセラレータープログラムでは、3か月という短期間で成果を出すプログラムが一般的でした。しかし、私たちのプログラムでは、所有する施設や大丸有(大手町・丸の内・有楽町)の街を活用しての実証実験なども想定していました。そのため、他社よりも協業に時間をかける必要があります。3か月に設定したデモデイはあくまで通過点で、それから本格的な付き合いが始まる意識を持っていました。

初めてのアクセラレータープログラムの反響は大きく、約240件もの応募が集まったという。対外的なアピールとして成功と言えるかもしれないが、同時に悩みの種にもなったようだ。

小林:どんなに応募が集まっても、実際に協業まで進められる企業の数に限りがあります。数多く集まった企業の中から、採択する企業を決めるのは大変でしたね。また、初回のプログラムでは、テーマを細かく設定していなかったため、シードフェーズの企業からの応募も多くありました。起業したてのスタートアップと一緒にサービスを作り上げていくのは、とても刺激を受ける一方で、サービス実装までの期間はどうしても時間がかかってしまいます。
そのため、回を重ねるごとにテーマも具体的に設定するようになってきました。
開始当初は提案を受けることが多かったですが、解決したい当社の課題や協業でやりたいことが具体的に見えてきたため、それを実現できるスタートアップを募集するようになったのです。そうすることで、アーリー以降のプロダクトを持っている企業からの応募が増え、よりスピーディに協業を実現できるようになりましたね。

アクセラ成功のポイントは、「トップが旗を振る」と「段階的な事業部巻き込み」

アクセラレータープログラムを実施している多くの企業がぶつかる壁が、「事業部を巻き込めない」ことではないだろうか。プログラムを開催したものの、いざプロジェクトを始める段階になって事業部の協力を得られず、プロジェクトが頓挫してしまうのはよく聞く話だ。小林氏はどのようにその壁を乗り越えてきたのだろうか。

小林:弊社でも他社と組んで新しいことを始めることに、
最初から事業部が積極的に関わる仕組みが作れたわけではありませんでした。しかし、プログラムの早い段階から、スタートアップとの面談に事業部のキーマンを入れることで、事業部がより当事者意識を持って取り組むことができるようになったのです。
この時、誰をキーマンにするかが重要です。どの事業部にも新しいものが好きで、社外との協業に積極的な人間が一人はいるものです。そのような人間をキーマンにして橋渡し役にすることで、比較的スムーズに事業部の協力を得られたと思います。
ちなみに今年の4月からは、それぞれの事業部に新事業担当ユニットをもうけ、自発的にプログラムに関与してもらう仕組みを作りました。はじめは個人を使ってプログラムの意義を浸透させてきましたが、最近になって組織としての理解が進んできたことを実感しますね。

社内の巻き込みに苦労している企業へのアドバイスももらった。

小林:プログラムを開始するタイミングで、トップのコミットメントがとても重要です。私たちの場合は、プログラムの初回は社長に最終審査をしてもらいました。最初にトップから大きなメッセージをもらうことで、格段に社内を巻き込みやすくなるはずです。
また、はじめから完璧なプログラムは目指すのではなく、段階的に社内に浸透させていくことが重要です。私たちも回を重ねるごとにブラッシュアップしてきて今があります。いきなり事業部全体との取り組みを始めるのではなく、まずは協力的な人を探すことから始めるといいと思います。

長期的な視点でプログラムを運営していくことは、プログラムの内容を改良していくだけでなく、スタートアップとの関係性を深めるためにも重要なことだと続ける。

小林:スタートアップとの関係は、プログラム期間だけで終わるものではありません。長期的な関係性を築くからこそ実現する協業もあるものです。例えばファーストコンタクトでは協業まで至らなくても、2年後に協業が実現したケースもありました。短期的に成果を求めるのではなく、長期的な付き合いができるスタートアップが蓄積されていけば、それは協業のための資産になっていきます
そういった意味では、アクセラレーターを介してスタートアップに出会うのは大きなメリットです。いきなり協業をする前提で出会うと、お互いに協業を成功させるために期間や条件など契約交渉になってしまいます。しかし、アクセラレーターならソフトに関係性をスタートできるため、余裕をもって関係性を築いていけます。アクセラレーターで採択した企業の中には、いくつかプロジェクトを行っていく中で、結果的に資本業務提携に至ったケースもあります。もし、いきなり協業や業務提携の話から入っていたら、同じ結果にはなっていなかったかもしれません。

今年も開催されるアクセラレータープログラム。2019年との違いとは

これまで3回のアクセラレータープログラムを成功させてきた会社として、これからプログラムを始める会社へのアドバイスを語ってくれた。

小林アクセラレータープログラムをやろうと思っているなら、すぐにやった方がいいと思います。「アクセラレーター」という形態で始めるかどうかはともかくとして、広くスタートアップとの関係を築いていく取り組みは、もはやどの企業にも必須です。私たちも最初はアクセラレーターのあるべき形を模索していましたが、結局は自分たちの会社に合うようにカスタマイズしています。ですので、もしアクセラレーターをどう始めればいいか悩んでいるのだとしたら、形にとらわれずに始めてみればいいと思います。

自分たちの会社に合うようにカスタマイズしてきた点について、他の企業ではマネできない三菱地所ならではの強みを教えてくれた。

小林:私たちのプログラムの最大の特徴は、リアルに実証実験を行える場所を提供できることです。オフィスや住宅、ホテルなど、グループ会社が保有している施設なども含めて、様々なラインナップを用意できます。私たちほど、リアルな場を提供できる企業はそう多くないため、多くの企業に評価していただいていますね。ですので、リアルな場での実証実験が必要なプロダクトを持つ企業との相性がいいと思います。

回を重ねるごとにブラッシュアップを続けてきたというが、今回のプログラムではどのようなポイントが改良されているのだろうか。

小林:これまでは「街をテクノロジーで変えていく」という大きなテーマで募集してきましたが、今年は各事業部からより具体的にビジョンや課題をヒアリングしてきました。それぞれの事業部が持つ課題や、実現したいことをもとにテーマを設定しているので、スピーディに協業を実現できるはずです。

また、当初はイベント的に開催してきたプログラムも、既に対外的なアピールもでき、私たちの取り組みを理解してもらったので、イベント的な要素は薄くなっています。今年からは最終審査も社長ではなく、それぞれの事業部が行います。協業にダイレクトに直結する企業を採択できるので、より確度の高い協業を生み出せるはずです。



▲アクセラレータープログラム

最後に、アクセラレーターに限らず、オープンイノベーションを成功させるためのポイントについても、まずはトライしてみることが大事だと語ってくれた。

小林:オープンイノベーションはやってみないと分からないことが多いです。そのため、オープンイノベーションの必要性を感じているなら、まずはトライしてみることが大事。仮に期待通りの成果が出なくとも、それは失敗ではありません。そのやり方では成果が出ないということが分かるのも、一つの学びです。大事なのは「オープンイノベーションをしてもうまくいかないから、やめよう」ではなく、どうやったらうまくいくか考えることです。私たちも改善を繰り替えてしてきたから今があるので、これからオープンイノベーションを考えている方は、まずやってみてから改善していく覚悟で始めてみてください。

ここがポイント

・三菱地所がアクセラレータープログラムを始めたのは、より多くのスタートアップと繋がるため
・回を重ねるに従い、解決したい課題や協業でやりたいことが具体的に見えて来て、それを実現できるスタートアップを募集するようになった
・プログラムの早い段階から、スタートアップとの面談に事業部のキーマンを入れることで、事業部がより当事者意識を持って取り組むことができるようになった
・いきなり事業部全体との取り組みを始めるのではなく、まずは協力的な人を探すことから始めるといい
・オープンイノベーションの必要性を感じているなら、まずはトライしてみることが大事


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:戸谷信博