TO TOP

デリバリー領域の「Shopify」を目指す。複数のアクセラレータープログラムに採択されたスカイファームはアフターコロナのニューノーマルとなれるか

NEW

読了時間:約 9 分

This article can be read in 9 minutes

新型コロナウイルス感染症の影響で大きく変わった私たちの生活。中でも特に変化が大きいのは「外食」ではないだろうか。飲食店は休業や時短営業を余儀なくされ、私達自身も飲食店に足を運ぶ回数は激減した。代わりに利用者が激増したのが「デリバリー」サービス。急遽デリバリーを始めた飲食店も多く、これまで店に行かなければ食べられなかった料理も気軽に家で食べられるようになった。

デリバリーと聞いて最初に想起されるのは、「UberEats」や「出前館」などの大手のサービスかもしれないが、新しい形のデリバリーサービスを提供するスタートアップも成長している。三菱地所のアクセラレータープログラムにも採択され、横浜みなとみらいエリアの厳選したお店のデリバリーサービス「NEWPORT」や、丸の内エリアのオンライン手みやげデリバリーサービス「TANOMO GIFT」を展開するスカイファーム株式会社だ

今回は代表の木村拓也氏に、創業の経緯や大手競合他社との違いについて話を伺った。コロナ禍の影響で激変したデリバリー市場を見て、木村氏はどのような未来予想図を描いているのだろうか。

INDEX

大学卒業直後の起業が苦い思い出に。それでも再び起業したワケとは
質の高い接客でプラットフォーム型デリバリーと差別化
配達の苦労が分かることが、最大の競合優位性に
協業の可能性を広げられるアクセラレータープログラムの魅力
ここがポイント


木村拓也
米国San Francisco State University卒業。外資系IT企業を経て楽天株式会社へ入社。チームマネージャーとして自動車、家電メーカー、エステ、金融と多岐にわたるクライアントの戦略立案をディレクション。モバイルコマース事業へ強い関心を持ちスカイファーム株式会社を創業。

大学卒業直後の起業が苦い思い出に。それでも再び起業したワケとは

木村氏が会社の立ち上げに初めて携わったのは、大学卒業直後に遡る。大学の先輩とWebCMの制作会社を立ち上げ、取締役としてがむしゃらに働いていた。しかし、初めての起業経験は木村氏にとって苦い思い出として残っているようだ。

木村:初めての起業は結局2年で終わり、私自身も心身ともにボロボロになっていました。当時は、会社に泊まってひたすら長時間働いていただけだったので、今思えば成功しなくて当たり前。ただ、もう二度と会社経営をしたくないと思ったほどでした。

失敗の記憶から、二度と経営に携わりたくないと思っていた木村氏だが、最終的にはスカイファームを経営するとことなる。そのきっかけには、スカイファームを起業する前に働いていた、楽天での仕事が契機となったと言う。

木村:楽天ではスタートアップのマーケティングに携わる機会があり、企業が急成長する様子を間近で見ました。最初は5万円や10万円だったマーケティング予算が、いきなり1億円になるのを見て、起業に対する熱が再び高まったのです。

木村氏がスカイファームを立ち上げるきっかけとなったのは、楽天での社内ビジネスプランコンテストだ。木村氏が当時目をつけていたのは、モバイルコマースだった。

木村:2014年頃の話なのですが、当時はスマホが急激に普及していて、スマホで買い物するのが当たり前の社会になりつつありました。「新鮮な野菜などもっと身近なものがスマホから簡単に注文して手に入るようになれば、世の中はもっと便利になる」と思い、当時は近場の農家の野菜を売買できるプラットフォームを考えていました。そのため実際に八百屋で修行もさせてもらいましたね。
お世話になったのは低農薬や無農薬の野菜を扱っているお店で、メインの購買層は60代。20代や30代の若い方もお店に来るものの、なかなか野菜を買ってくれません。そんなとき、お店に買い付けに来ていたシェフに「野菜じゃなくて、この野菜を使ったうちの料理を配達すればいいんじゃない」と言われて、フードデリバリーにシフトしていきました。若い方たちは忙しく、そもそも「料理の時間を確保することが難しい」ことが課題だと定義したのです

質の高い接客でプラットフォーム型デリバリーと差別化

フードデリバリーを始める拠点として、候補地に考えていたのはお台場、六本木、渋谷、みなとみらいの4つ。その中で最終的に木村氏が選んだのが、競合もおらず就業人口も多いみなとみらいだ。

木村:当時はオフィスに弁当を配達するサービスも増えていましたし、自分たちもオフィスに配達するモデルを想定していたため、配達サービスの質での差別化を考えていました。そんなときに参加し採択された、三越伊勢丹のアクセラレータープログラムで「販売員に運んでもらえばいいのでは?」と言われたのが、今のビジネスときっかけとなりました。
当初はUberEatsなどのようなプラットフォーム型のビジネスを検討していましたが、接客の質を担保するために、自分たちで配達するモデルにシフトしたのです。私達のサービスは、配達員が飲食店のスタッフに間違われるぐらい質の高い接客ができることを目指していますし、接客の質の高さで私達を選んでくれる法人のお客様も少なくありません。最近では、お店のスタッフが簡単に配達できる仕組みづくりも始めました。わかりやすく例えるなら、プラットフォーム型の「UberEats」などが楽天やアマゾンであるなら、自分たちやお店のスタッフが配達するモデルはデリバリー領域の「Shopify」のようなものです。

従来、フードデリバリーを利用する飲食店は、自社(自店舗)でデリバリーをすることが難しいため、デリバリープラットフォームを利用していた。しかし、コロナ禍でのデリバリーニーズの高まりを受け、自社でデリバリーまで行いたいと考える飲食店が増えているというのだ。スカイファームは、そのような飲食店に対し、デリバリーを前提とした店づくりのソリューションも提供している。最近では、横浜中華街と組んで、商店街単位でデリバリーの仕組みを作り上げている。

木村:今作っている仕組みは商店街に特化したマーケットプレイスで、配送スタッフも商店街の人たちが用意してくれています。例えば、商店街の中の新聞屋です。お昼の新聞配達がない時間などに食事の配達も行うのです。また、ホテルへの配送をホテルのスタッフが行うことも。例えば、レストランのないホテルは、周辺のレストランから食事を配達してもらうことで共存しているのです。スマホから注文できるルームサービスのようなものですね。

今や商店街を巻き込んでデリバリーを考える時代がやってきているようだ。最近では新しい商業施設を作る際にも、相談を受けることもあると木村氏は語る。

木村:今はデリバリーやテイクアウトを前提に、商業施設を設計するのが一般的になってきています。商業施設の方にも「これからはデリバリーやテイクアウトを考えずに施設は作れない」とまで言われました。

これまではデリバリーを利用するオフィスワーカーは、昼休みも勉強するために1分でも時間を有効活用したい意識の高い人ぐらいのものでした。それが今は人混みを歩きたくなかったり、コンタクトレスで買い物したいといったニーズで、デリバリーを使うオフィスワーカーも急増しています。商業施設にしても商店街にしても、時代に対応するためにデリバリーの必要性を感じているようです。

配達の苦労が分かることが、最大の競合優位性に

市場が急拡大し、新しいスタンダードとなりつつあるデリバリーだが、木村氏が頭を抱えている課題もある。それが送料だ。

木村:最近は料理に加え、野菜や生鮮のデリバリーも始めたのですが、そこで課題になっているのが送料です。単価の低い野菜を買うのに送料がかかるのは気になるもの。送料をいくらに設定するのか、もしくは手数料に含めたほうがいいのかなど、送料に関する悩みにいつも頭を抱えています。
ユーザーはもちろん送料が安い方がいいに決まっていますが、配送する側にとっては意外に大きなコストです。安全に配送できるように工夫し、慎重に運んでいるものの、その努力はなかなかユーザーには見えません。送料を安くすればユーザーは喜びますが、配達員からは反感を買ってしまいます。

これまでもテスト的に送料を値下げしたこともあるようだ。たしかに注文は増えたが、一方で、別の問題も発生したという。

木村:普段500円に設定している送料をテスト的に200円にしたことがあります。しかし、配送スタッフから「私達の仕事の価値は200円じゃない」と言われました。安全に配達するために頑張っているスタッフたちを見れば、その気持ちも痛いほどわかります。社内のスタッフだけでなく、提携している配送業者も同じで、送料の値下げにはアレルギーがありますね。送料を下げて注文を増やせるのは分かっていますが、配送スタッフたちの誇りを奪ってしまうことにもなりかねませんし、配送コストも抑えなければいけません。送料をいくらに設定するかは、本当に難しい問題です。

送料の設定に悩む木村氏だが、その経験こそ他社との差別化に繋がっていると言う。自社で配送まで行っているからこそ、これからデリバリーを始める飲食店の悩みに深く共感できるのだ。

木村:最近はゲーム会社がデリバリーサービスを始めるなど、他領域からデリバリー市場に参入してくるケースが増えています。それ自体は素晴らしいことだと思いますが、システムを作っているだけでは見えない現場のこともあるのです。私達は自分たちでも配達をしているので、送料の設定をはじめデリバリーを始める際にぶつかる壁を想定できますし、それをシステムにも反映させられます
一例には「配送キャパシティ」を設定できる機能が挙げられます。これは時間帯ごとに注文を受ける数の上限を設定できる機能で、上限まで注文が入ったらそれ以上注文を受け付けられなくする機能です。これは私達が、実際に配送していて必要だと感じたから実装しました。他の会社は機能を真似ることはできると思いますが、なぜその機能が必要なのか、どれくらい必要なのかはわからないと思います。

協業の可能性を広げられるアクセラレータープログラムの魅力

スカイファームは三菱地所のアクセラレータープログラムにも採択され、オンラインで手土産をデリバリーしてもらえる「TANOMO GIFT」などで協業を実現している。手土産のデリバリーとはユニークに感じるが、どのようにサービスは作られたのだろうか。

木村:「TANOMO GIFT」は私達から提案したアイディアではありません。もともとはランチのデリバリーサービスを提案していたのですが、三菱地所さんからは手土産のニーズのほうが強いと言われてシフトしたのです。客先に持っていく手土産の用意は若手社員に任されることが多かったようです。しかも、手土産を選ぶのはセンスも求められますし、意外に時間と体力が奪われるため、ただでさえ仕事の多い若手社員にとってできれば避けたい仕事でした。そこから当日でもオンラインで注文できる「TANOMO GIFT」が生まれました。それまで手土産を買うのが課題などとは気づきませんでしたし、三菱地所さんからの提案がなければ作れなかったサービスです。

木村氏は三菱地所との出会いがアクセラレータープログラムだったことも、協業が成功した理由の一つだと言う。もし、協業を前提の出会いであれば、今と同じ結果になっていなかったかもしれない。

木村:協業を前提に大企業に出会う場合は、大企業が抱えるピンポイントなニーズに自分たちの技術を当てはめていかなければなりません。もし当てはまらなかったら、その場で協業の話は終わりです。しかし、アクセラレータープログラムの場合はもっと広い視点でディスカッションができます。提案して「YES or NO」という話ではなく、幅広い可能性を模索できるのがアクセラレータープログラムの魅力ですね。実際に三菱地所さんとは、最初のサービスが終わっても関係が続いて、「TANOMO GIFT」で協業を成功させられました。

スタートアップの立場として、大企業と協業する難しさはどこにあると感じているのだろうか。

木村:大企業はスタートアップと違ってステークホルダーの数が違うため、いろんな人に同意をもらうなど調整に時間がかかります。それを理解していないと、スタートアップとしては仕事がしづらいかもしれませんね。
大企業との協業を考えているスタートアップにアドバイスをするとしたら、できるだけ中長期の目線を持つことです。スタートアップは資金もリソースも限られているため、どうしても視点が短期的になりがち。しかし、大企業は中長期の目線で考えているため、時間軸が合わず、最悪の場合空中分解してしまうことも。短期でやるべきことは自社でやり、大企業と組むなら腰を据えて長期の目線で考えましょう

最後にこれからのデリバリーサービスの未来予想図について、このように語ってくれた。

木村:これからデリバリーがもっと当たり前になっていくので、デリバリーの機能はプリセットになっていくと思います。それに合わせてデリバリーにまつわる様々な会社が登場するでしょうね。それは、新しい会社というだけでなく、タクシー会社など他の業界からも参入してくるはずです。さらにはロボティクスやドローンでの配達が実現すれば、デリバリー市場はさらに加速していきます。

それにより、これまでデリバリーをしていなかった有名店なども気軽にデリバリーできるようになるので、ユーザーの満足度も上がっていくでしょう。更には、地方でおじいちゃんとおばあちゃんが二人でやっているような店でも、デリバリーが可能な社会になっていくと思います。

ここがポイント

・野菜のモバイルコマースからシェフのひとこときっかけに、フードデリバリーへ
・プラットフォーム型の「UberEats」などが楽天やアマゾンであるなら、自分たちやお店のスタッフが配達するモデルはデリバリー領域の「Shopify」のようなもの
・今やデリバリーやテイクアウトを前提に、商業施設を設計するのが一般的になってきている
・提案して「YES or NO」ではなく、幅広い可能性を模索できるのがアクセラレータープログラムの魅力
・大企業との協業で重要なのは中長期の目線を持つこと


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:河合信幸