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街じゅうを“駅前化”する!電動マイクロモビリティのシェアをてがけるLuupが行う、戦略的実証実験の作り方

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2020年は社会のIoT化が一層進んだ年だった。オフィスや生産拠点のIoT化が模索され、ビッグデータを活用するためのインフラが着々と整備されている。個人宅にもIoTガジェットが普及し、全国各地の都市でスマートシティ構想が進んでいる。

日本有数のオフィス街、大手町・丸の内・有楽町エリア(以下、大丸有エリア)でもスマートシティ構想が立てられ、エリア内の地権者や企業、行政機関が共に丸の内を進化させる「未来の街の姿」を模索している

このスマートシティモデルプロジェクトの一環として行われているのが、電動マイクロモビリティの公道走行による、安全性や社会受容性を検証する実証実験だ。電動アシスト自転車や電動キックボードなど、「電動マイクロモビリティ」全般のシェアリングサービスを手掛けるスタートアップ「株式会社Luup」が、大丸有エリアでの電動キックボードの公道実証を政府認可のもとで行なっている

Luupは現在、渋谷区、新宿区、港区など、東京都の一部で小型電動アシスト自転車を用いたシェアサービスを提供している。街中に設置したシェアポートから借りることができ、初乗りは10分100円から。スマホがあれば搭乗できる手軽さから、着実に利用者を増やしている。将来的には、同サービス内に電動キックボードを導入していく予定だという。

同社はこの実証実験に際して何を考え、どんなことを心掛けたのか。さらには将来的にどのようなビジョンを立てているのか? Luup代表の岡井大輝氏にお話を伺った。

INDEX

実現したいのは“30年後の明るい日本”。そのために選んだ交通インフラ事業
関係者と共につくる、安心して乗れるモビリティ。必要なのは実証実験のための実証
目指すのは業界全体の成功。都市の経済圏が変わると数千億円の不動産価値が変動する
ここがポイント

岡井大輝
株式会社Luup 代表取締役社長兼CEO
東京大学農学部を卒業。その後、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業。代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。

実現したいのは“30年後の明るい日本”。そのために選んだ交通インフラ事業

そもそも同社はなぜ電動マイクロモビリティ領域に参入したのだろうか? その背景には、先々の日本を見据えたビジョンがあった。

岡井「世の中のビジネスは、大きく分けて『エンタメ』と『インフラ』に分けられていると考えています。『エンタメ』は映画やゲームなど作品ごとに価値があるもので、『インフラ』は不動産や公共交通など、一意に存在し無ければ困るもの。どちらをやりたいかと考えて、僕は『インフラ』を選びました」

さらに、岡井氏は「30年後に『あの時やっていてよかった』と言える事業を目指したい」と話す。

岡井「残念ながら、日本の30年後を想像して希望を抱く人は少ないと思います。若い世代に話を聞けば『年金はもらえるのか』『両親の介護はどうするのか』と課題が山積みです。だから、Luupはいま必要な社会基盤ではなく、30年後に必要なインフラを作りたかった。そのなかで僕たちが向き合える領域は、『介護福祉』と『まちづくり』だと考えました」

現在は電動マイクロモビリティのシェア事業に取り組むLuupだが、創業当時は家庭での介護を求める人と、元介護士や主婦をマッチングするWebサービスに取り組んでいた。しかし、介護人材の移動手段が確保しきれず、ラストワンマイルの交通手段が欠如している課題に着眼し、現在の業態に事業転換している。「介護福祉」に取り組むために、交通インフラの整備に着手した形だ。

Luupは将来的に「街中を“駅前化”する交通インフラ」を目指している。鉄道やバスがカバーしてきた交通網を電動マイクロモビリティで広げ、都市の隅々まで公共交通ルートを開拓していく。同社のビジョンが実現すれば、社会はどのように変化していくのだろうか。岡井氏は「まずは不動産価値の変動が起こる」と話す。

岡井「本質的には、モビリティは不動産業の一環だと考えています。公共交通は人の行き来ありきで成り立つ事業で、バスや電車も切符代で採算を合わせていません。JRや私鉄は、付随する都市開発や不動産事業で売上を確保しています。
日本の大都市では不動産の価値が“駅から徒歩〇〇分”という基準で決まっていますから、一般的に駅に近ければ高価になるし、遠いほど安価になる。電動マイクロモビリティが普及すれば、駅からの徒歩20分圏内の移動時間を大幅に短縮でき、いままで借り手がつかなかった物件にも日の目が当たるはず。Luupは新しい乗り物を普及させることで、都市の経済圏を拡充していきたいのです」

関係者と共につくる、安心して乗れるモビリティ。必要なのは実証実験のための実証

モビリティの力で都市の経済圏を広げたい、と意気込む岡井氏。しかし、参入前にモビリティビジネスの知見はなかった。

岡井「僕たちにノウハウはありませんでしたが、十分に勝機はあると思いました。なぜなら、Luupの事業はシステムの質で勝負できるからです。
公共交通インフラを成り立たせるためには、ダイヤ通りに運行させる『安定性』と、人々の動線に商業施設や住宅事業を築いていく『規模』が必要です。一方、マイクロモビリティのシェア事業は、安定性と規模だけでは成り立ちません。初期段階こそハードウェアの開発が必要ですが、普及段階ではモビリティの管理や再配置の精度が求められます。インフラの規模ではなく、管理システムの質で勝負できるので、スタートアップにも参入できると考えました」

しかしながら、同領域には参入障壁も多い。たとえば、道交法の規制はどうだろう。電動マイクロモビリティは公道を走る乗り物で、既存の乗り物と共存するために規制緩和が必要だ。

規制緩和には、公共交通を管轄する警察庁をはじめ、行政や自治体、地元住民の協力や理解が求められる。2020年10月から半年間行なわれている大丸有エリアの実証実験もその一環だ。同社は根気強く関係省庁や自治体との対話・協議を重ね、全国30箇所以上で実証実験を重ねながら、関係者と調整を進めてきた。

岡井「顧客視点で電動マイクロモビリティに何が求められているのだろう?と考えて、我々は信用と安全性でアピールしたいと思いました。『もし事故が起きたら責任を負えるのですか?』と問われたら、『安全性を担保するために、最大限の検証を行ないました』と言えなければいけない。誠実に安全性を検証したプレイヤーにお声がかかるはずですし、最終的にビジネスに直結すると考えて、自治体や行政と協力しながらプロジェクトを進めています」

信用と安全性以外には、実証実験を円滑に進めるために何を重視してきたのだろうか?

岡井「これまで様々な実証実験をしてきましたが、『いい実証実験』『良くない実証実験』を分けるのはゴール設計とプロセスです。僕たちは実証実験をプレゼンだと考えています。一般的なスタートアップは、サービスを知ってもらうためにデモムービーを用意しますが、LUUPの安全性や乗り心地は動画では伝わりません。そのため、できる限り自治体や行政、警察の方々に実機に乗っていただく機会が必要です。そのうえで、『何を実証する必要があるのか』のゴールを設計、ゴールからの逆算で実証環境と規模を設定、定量的なデータを取り続けてきました。実証実験はともすると、『あの街で実証実験できたらいいね』と手段が目的化してしまいがちです。そうしないためにも適切なゴール設計が必要なんです」

実証実験においては、プロセスを細分化することにも気を配ったという。万が一にも事故が起きないよう、段階的に条件を変え、安全で確実な実証を心掛けた。

岡井「LUUPは、開発段階で人の安全を脅かさないよう、『実証実験のための実証』を繰り返してきました。最初は私有地、次に枠で囲った公園の一部、教習所、大学の敷地内と、段階を経てユーザーの使用環境に近づけています。大学は私有地といえど、人や自動車も行き来していますから、これ以上公道に近い場所はありません。そうしたプロセスを経て、ようやく今回、一部の公道で実証実験を実現させてもらいました。
公道での実証も、最初はエリアを限定して、徐々に区域を広げ、ヘルメットを着用して自転車レーンに入れていただき……。と、これ以上細かくできないほど実証ステップを刻んでいます。
プロセスの細分化に加え、この過程に、関係者を巻き込むことが重要です。自治体・政府・研究機関と協議して、納得いただける検証方法を取らなければ、実証を行なう意味がありません」

LUUPの事業を進めるには多くの関係者が存在し、巻き込みには多大な労力が必要だ。関係省庁とのやりとりや、実証プロセスの協議など、地道な作業が山積みだろう。ハードシングスを乗り越える原動力はどこから生まれているのだろうか?

目指すのは業界全体の成功。都市の経済圏が変わると数千億円の不動産価値が変動する

岡井「関係者と交わした約束が、Luupの原動力です。起業そのものは大学時代からやろうとしていて、当時は無知ゆえの過剰な自信が僕を動かしていました。いま、エネルギー源になっているのは責任感です。事業を進める中で、関係省庁の方や政治家の方、デベロッパーの方々など、本当に様々な人が活動に協力してくださっています。その期待に応え、やり遂げなければと考えているんです。ただでさえ多忙な様々なキーマンが協議に参加してくださるのは、インフラやまちづくりに与える影響に期待を寄せてくれているからだと思います。電動マイクロモビリティが普及すれば、街が活性化する。都市の経済圏経済が広がり、不動産業界が成長すれば、数千億円以上の経済効果が生まれます。これまでLuupは国のトップクラスの方々にお時間を割いていただきました。だからこそ我々は『街中を駅前化するインフラ』を実現しなければいけないんです」

関係者を巻き込んだ実証実験は、利益には直結しない取り組みだ。リソースが限られがちなスタートアップには制約も多いだろう。それでもなお、岡井氏はやり遂げねば、と考えている。

岡井「ここでLuupが規制の適正化に失敗すると、電動マイクロモビリティ業界の成長を鈍化させてしまう。僕たちの動きで、今後国内ベンチャーがこの領域に進出できるかどうかが決まると思います。失敗が許されないから、関係者や競合を巻き込んで、業界全体を前進させなければいけません。
競合他社も共に事業を作っていくパートナーだと考えていて。マイクロモビリティ業界全体が成長する方が、世の中への普及も早まります。アメリカにも8社ほどモビリティ企業がいますが、全社が国内に参入してもらいたいですね」

岡井氏は自社単体の成功ではなく、業界全体の成長を目指していた。最後に、同社のビジョンを伺ってみよう。Luupは何を実現し、どのような未来を作りたいのか?

岡井目指す社会は電動マイクロモビリティを公共資材にすること。電車やバスの先にある移動が自由になれば、街が活性化して、不動産の価値向上にもつながっていくはず。
この20年でテクノロジーが世の中を変えていく様子を見てきましたから、僕はあらゆるモビリティが電動化すると確信しています。我々ではなくても、おそらく誰かが電動マイクロモビリティを普及させてくれるはず。それがLuupであれば嬉しいですが、僕たちが積み重ねたステップは、誰かが必ず受け継いでくれると信じているし、それが僕たちでありたいですね」

ここがポイント

・大丸有エリアで、電動マイクロモビリティの公道走行による、安全性や社会受容性を検証する実証実験が行われている
・Luupはいま必要な社会基盤ではなく、30年後に必要なインフラを作ることを目指す
・規制緩和には、公共交通を管轄する警察庁をはじめ、行政や自治体、地元住民の協力や理解が求められる
・『いい実証実験』『良くない実証実験』を分けるのはゴール設計とプロセス
・開発段階で人の安全を脅かさないよう、『実証実験のための実証』を繰り返してきた
・プロセスの細分化に加え、この過程に、関係者を巻き込むことが重要
・移動が自由になれば、街が活性化して、不動産の価値向上にもつながっていく


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:小池大介