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BEAMSが考える信頼を得るスタイリング。「洋服」と「ファッション」は別物

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昨今、大手企業とスタートアップがコラボレーションする「オープンイノベーション」が拡大している。
企業風土の全く異なる両者が志を同じくするとなれば、パートナー(相手方担当者)が信頼できるかどうかは、ビジネスの命運を分ける重要な決め手になるだろう。顔を知らない相手であれば、キックオフミーティングまでの仕切り、メールの文面、電話の応対などから既に相手への品定めは始まっている。
そこからさらに顔合わせとなれば、相手に与える印象は一瞬で決まる。基本的に、人は第一印象に引っ張られるものとされる。一瞬で、その後の長い付き合いが吉と出るか凶と出るかが決まってしまうのだ。

2005年には、新潮新書から「人は見た目が9割(著・竹内一郎)」が出版され、その帯には「理屈はルックスに勝てない。」との文句が踊っていた。兼ねてから、「同族」に対しても無意識のうちに人の身なりから相手の素性を推し量ってきた私たちが今、異文化の相手と関わる際に、同じ議題をまな板に載せるのも不思議なことではない。同書の出版当時以上にあらゆる畑の人が入り乱れる今、あらためて、自分の着こなしが他者へ与える印象について考えてみたい。

INDEX

混同しがちな洋服とファッションは別もの
清潔感を感じさせる格好かどうか
ビームスの太鼓判。清潔感を醸し出す服を組んでみる
スタイル1 メンズ 普段使いのデニムをドレスアップさせた、カジュアル×トラッド
スタイル2 メンズ 小柄のジャケットであそんだ、大人のビジネスシルエット
スタイル3 ウィメンズ 華やかさの中にフランクさを覗かせる、上質なビジネスカジュアル
スタイル4 ウィメンズ 内なる知的さを匂わせる、レディライクなパンツカジュアル
ここがポイント


諸岡真人 (もろおか・まひと)
株式会社ビームス クリエイティブ 販売促進本部PR戦略部 PRディレクター
ファッショントレンドとしてクラシコ・イタリア(1986年にフィレンツェで結成されたクラシコ・イタリア協会に加盟する仕立屋が生み出した仕様。大量生産や生産効率を優先させたレディメイドに対して、良質な素材や技術を用い、古き良きサルトリア(=仕立て屋)の手仕事を多用したシルエットを引き継いでいる)が盛り上がる最中に大学入学。ほぼ同時期に、BEAMS Fのアルバイトを始め、大学卒業後、正社員となる。BEAMS F、ビームス ハウス 六本木の販売スタッフとして、実際のビジネスシーンにふさわしいスタイルの提案をしてきた。現販売促進本部PR戦略部係長/PRディレクター。

混同しがちな洋服とファッションは別もの

諸岡:今日のテーマは、最近私がよく話す、「洋服」と「ファッション」の違いに相通じるところがあるのでそこから始めさせてください。まず、このふたつは同一視されがちですが、本質的には異なる要素だと考えています。どう異なるかというと、まず、洋服は暑さ寒さの温度調整や、人間が社会生活を営む上で必要な最低限のモラルを守る「機能」に合わせて選び、身を包むものだと定義されます。裸で家の外には出られませんよね。そういった自分以外の外の世界、すなわち社会と適切な調和を図る媒体物だと言い換えることができます。一方、ファッションはどちらかと言うと、エンターテインメントやプライベートに寄ったものです。より自己中心的な欲求を満たすもので、オフィスカジュアルのように相手に配慮したものではありません。となると、洋服とファッションはそれぞれの用途や目的を切り離して、区別する必要があります。

週末、私的な時間に着る服が「ファッション」視点に立った着こなしだとすると、ビジネスシーンで纏う服は「洋服」の機能を念頭に置いて選ぶ必要がある。他者との関係性や、社会における自らの立ち位置を明確にするものだからだ。では洋服の「機能」を適切に活用することで、私たちはどんな利益を得られるのだろうか。

諸岡:着る服によって他人からの扱われ方が変わると思います。自分の体験談ですが、20代の頃、一時期滞在していたヨーロッパでまざまざとそれを感じました。今日着ているようなスーツやジャケットが当時から大好きでよく着ていたんですが、そうしたかちっとした格好でいると、飲食店などサービスが提供される場での待遇がだいぶ違うんですね。振り返ると、年齢にかかわらず、サービスを提供される「場」にふさわしい「洋服」を着ていたからなんでしょう。つまるところ、身なりひとつの違いだけで、相手からの信用を得られたのです。

諸岡氏のプライベートの話ではあるものの、同じようなことはビジネスの場でも言える。大事なプレゼンへの出席や重要な商談、取引先との初めてのミーティング。突き詰めれば、受け手としてのプレゼンの場でもまたTPOにふさわしい格好であることが、その場で話す/聞く内容に説得力をもたせ、ビジネスにおける勝機を格段に底上げする。実際、物言わぬ一着の着こなしが、適切な非言語コミュニケーションとして十二分に機能することを無意識のうちに私たちは気づいているのではないだろうか。

諸岡:打合せ内容や、お会いする人のことを考えて服を選ぶことを言い代えると、他者への思いやりを持つことと同義です。服の選び方ひとつが、社内外の円滑なコミュニケーションに繋がります。たとえば、僕が今日アロハシャツに短パンを履いて「やっぱビジネスシーンで着るスーツっていうのはね〜」なんて語り始めたら、こいつ大丈夫かよってなりますよね(笑)。会社の看板を背負って仕事をする以上、その人の着ているものからどういう会社であるかが判断されかねません。その場にふさわしい格好であることが、自分のみならず会社や、対面する相手との不必要なディスコミュニケーションを避けることにもなります。

清潔感を感じさせる格好かどうか

諸岡氏の言うところの「他者への思いやり」を服選びで活かすにはまず、何から意識するべきなのか。

諸岡:最も意識していただきたいのは、清潔感です。破れたジーパンや汚れたスニーカー、よれたシャツや襟元なんていうのは原則として使うべきではないでしょう。たとえファッションとしてのオシャレだったとしても。なにが問題かというと、マイナスになる要素が大きすぎます。衛生的にどうかも含め清潔であることはもちろんですが、さらに言えば、何をもって清潔感とするのかをよく考える必要があります。まっ黄色の派手なスーツや奇抜なジャケットがいくら綺麗にアイロン掛けされていようとも、その格好から清潔感を感じ取る人はあまりいないでしょう。ただ小綺麗で、ちょっといい匂いがするみたいなこともまた論点から少しずれます。清潔感というのは、オシャレだとか変わっているなどの印象とはまた違うところにあるんです。

具体的に、清潔感を醸し出す服選びの三大要素とは、形、素材、サイズ感にあると言う。中でも、強調されるのはビジネスアイテムのフィッティング、すなわちサイズ感だ。

諸岡:店舗で接客していた時、もう数センチの裾上げで断然見え方が洗練されるのに、と常々悔しく思うことがありました。特に女性のお客様に多いのですが、明らかに袖が長い場合にもそのままお持ち帰りになるんです。どんなに仕立てのいい服だったとしても、少しのだぶつきが全体的にだらしない印象を与えます。本人としては、シーンに合わせた適切な着こなしを意識した服選びにも関わらず、結果としてもったいないことになってしまいます。

身体に合ったサイズ感は、意外と自分の目線からだけではわからないこともある。キャリアウーマンに比べ、ビジネスマンは日常的にスーツを着ることからフィッティングの意識を持っているだろうが、長年愛用したスーツを着続けているようであれば、あらためて丈感を意識してみるのも良いかもしれない。購入当時に比べて、今の、自分の体型にフィットしているかどうか。もし、迷うことがあれば、やはりプロに任せるのが一番なのだろう。フィッティングに関しては、身長や体型、上下のバランスなど一言で伝えられる正解がないからだ。個人によって最も適した丈感がある。そればかりは、安易に数字で何センチ詰めればいいなどという簡単な話ではない。

諸岡:気兼ねなく、お伺いいただけたらと思います。ちょっとした負担に感じられてしまうかもしれませんが、服屋のプロとしてはやはり、フィッティングの良さも含めいい洋服を着ていただきたいという想いがあります。洋服は、素材の良さ、仕立ての良さはもちろんですが、ご自身の身体の個性に合わせたフィッティングで着ていただいて初めて分かる良さがあります。服に限らず、良質なものを知っていらっしゃる方は知識がなくとも身体が無意識のうちに、その良さを理解されています。その感覚は、服選び以外の場面でも応用される審美眼の肥やしになると言えるでしょう。そうした本物の良さを、私どもは洋服、そしてファッションの観点から提供していきたいと思っております。

ビームスの太鼓判。清潔感を醸し出す服を組んでみる

一通りの心得を頭に入れたところで、具体的なアイテムでビジネスシーンで使えるコーディネートを組む。まず、男女ともに意識するべきは、「カジュアルアイテムは1点まで」というルール。アディダスのスタンスミスに代表されるローテクでベーシックなスニーカー、そして色味が薄すぎないデニムなどが定番アイテムとして活躍する。また、紺色のジャケットは1枚あるとスタイルが完成しやすい万能アイテムでもある。全体的に、黒や白、紺色、グレーをベースカラーとすることで洗練された印象にまとまりやすくなる。

スタイル1 メンズ 普段使いのデニムをドレスアップさせた、カジュアル×トラッド

日常的に履く機会の多いデニムパンツをベースに組んだコーディネート。ジャケットと靴を、デニムの色と同様の濃い濃度に揃えることで全体的に整った印象となる。注意するべきなのは、薄いデニムパンツ(カジュアルな印象を与える)や明るいトーンの靴をビジネスシーンでは避けること(全体のトーンが崩れ、軽率な印象を与える可能性がある)だ。またデニムの丈も長すぎることがないよう留意したい。

スタイル2 メンズ 小柄のジャケットであそんだ、大人のビジネスシルエット

普段のビジネススタイルをドレスダウンさせた。いつものジャケットを、控えめな色数ながらも小柄の一着に差し替えることで柔らかさとフランクさが加わる。今回は、ハウンドトゥース(千鳥格子)柄を採用。訪問先の担当者のイメージが十分に見えていない時など、親しみやすさと整った印象を両立させられる。柄物のアイテムは難しいと敬遠されがちだが、その他のアイテムを無地で統一すれば実は容易に洒落感を足すことができる。

スタイル3 ウィメンズ 華やかさの中にフランクさを覗かせる、上質なビジネスカジュアル

やわらかい印象に仕上がるパステルカラーを基調にしたスタイリング。オフホワイトのジャケットできっちりとした雰囲気を醸しつつも、足元をスニーカーで外してあげることで、全体的なこなれ感が演出される。ゆるめに結んだジャケットのベルトと、Aライン状に広がるフレアスカートは上品でフェミニンなシルエットを作り出す。よりかっちりした印象を与えたいシーンでは、スカート同様の柔らかい色目パンプスを合わせると良い。中でもベージュのスエード素材は最適だ。

スタイル4 ウィメンズ 内なる知的さを匂わせる、レディライクなパンツカジュアル

洗練されたスタイルに仕上げるならば、白、黒、灰色、ネイビーなどベーシックカラーを意識しながら差し色を一点。スタイル3で使用したブラウスを着まわし、付属のボウタイに視線を集めるパンツスタイル。ネイビーのジャケットでかっちり全体を締めながら、チェック柄のブーツカットパンツはマニッシュなテイストながら固すぎない印象を与える。足元はヒールで合わせて、レディライクな仕上がりに、ジャケットとパンツの組み合わせは、それぞれのアイテムの丈感をうまく組み合わせることが肝要となる。ちょっとの気遣いでスタイルアップが叶うのでぬかりなく。

協力 ビームス

ここがポイント

・「洋服」と「ファッション」は違う
・「洋服」は機能に合わせて選ぶ、社会と適切な調和を図るもの
・「ファッション」は自己中心的な欲求を満たすもの
・他者への服選びで意識すべきは「清潔感」
・ビジネスシーンで使えるコーディネートの「カジュアルアイテムは1点まで」


企画:阿座上陽平
取材・編集・撮影:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜